酒と健康を考えるとき、酒の持つ新機能に焦点が当てられがちです。心臓病には赤ワイン、脳血栓には本格焼酎などがその例です。これはこれで大事なことですが、もうひとつ忘れてはならないのが、酒が生まれた背景には必ず風土の影響があるということです。その影響はアルコール度や酒質といった特性、そして飲み方に反映されることになります。一見して、健康的と思えない酒であっても、そこには風土の影響を受けた必然性を見ることができます。
中国の蒸留酒である白酒(パイジュー)はアルコール度の高いことで知られています。五十度を超すものがストレートで飲まれます。これくらい度が高いと、日本の酒のように舌の上で転がしながら味わい深く飲むといことはできないので、小さなグラスで一気に飲むことになります。日本人にはとても理解できない飲み方です。同じ東洋人にそれほどの体質の違いがあるとも思われません。
その理由は白酒の生まれた風土にあります。白酒の本場のひとつである四川省は辛くて有名な四川料理のふるさとでもあります。辛い料理を食べ強い酒を飲み、熱いお茶を持ち歩きます。寒い土地だからではありません。蒸し暑い土地だからこそ、発汗をうながし、血行を良くし、風土病から身を守り、体調を維持するために、激辛料理と強烈な酒が生まれたのです。
この地の人たちはビールも常温で飲みます。冷蔵庫が普及していないこともあるでしょうが、からだが冷えるのを嫌っているようにも思えます。日本人は常温どころか少し生ぬるいだけでも嫌います。暑いときにはキリリと冷たいものが旨いに決まっている…いつのまにか私達はこのことに疑問を持たなくなっていたようです。ビールはキリリと冷やして、日本酒は熱燗より冷酒、ウィスキーには氷がつきもの。そういう人でも本格焼酎だけはお湯割りという人が多いのはどうしてなのでしょう。思えば不思議なことです。
琉球や球磨、薩摩といった暑いところでは、昔から高いアルコール度のものをストレートで、あるいはこれを燗して、あるいはお湯割りして飲んでいました。暑いところだからこそ、体が温まる飲み方をしてきたのです。体が求める飲み方だったといえます。それは、暑気払いのためであり、食欲増進のためであり、疲れを癒す生活の知恵としての飲み方でした。
冷たい一口のビールで喉をうるおした後に飲むお湯割りのおいしさは格別のものがあります。喉元を通り過ぎるときの爽やかさを味わったあとには、体が求める飲み方を大事にしたいものです。 |